就業規則のない会社で実際に起きているできごとを、いくつかご紹介しましょう。
試用期間の終了時期でもめる 
試用期間の長さに法律上の定めはありません。通常は、就業規則で「3か月」とか「6か月」と定めておくのが一般的であり、就業規則がきちんとしていれば、誤解もとまどいもいさかいも何も起きる余地がありません。
ところが、就業規則がないとどうでしょう。雇用契約書をしっかり結んで試用期間の長さも明記してあれば問題ないですが、就業規則すら作らない会社が雇用契約書をきっちり交わすとは到底思えません。
現実は、採用のときに口頭で伝えるか、最悪の場合は、「伝え忘れてしまう」こともあるでしょう。
そして3か月後、必然的にトラブルがやってきます。
あなた:「うちの会社の試用期間は6か月だ。君はまだ正社員にはなれない」
従業員:「えー、入社のときに3か月って言ったじゃないですかー!」
遅刻や欠勤控除でもめる 
「遅刻や欠勤したら給料から引いて良い」。これは、日本の法律の基本的な考え方です。したがって、引くことそのものは構いません。問題は、いくら引くかです。もっと正確に言うと、「どういう計算式で計算して引く額を決めるか」です。つまりは、「賃金控除の計算式はどんななの?」ですね。
びっくりですが、賃金控除の計算式は法律に定めがなく、おのおのの会社が就業規則で決めることになっています(当然ですが、合理的な範囲であることが必要です)。
就業規則がない場合は、この計算式が明確になっていないわけですから、賃金控除自体ができない事態も想定されるわけです。
身だしなみでもめる 
就業規則には「服務規律」という項目があり、身だしなみなども掲載することができます。たとえば、「茶髪や派手なマニキュア等は避けること」といった具合です。
就業規則がなければ服務規律もないわけですから、従業員がすごい恰好で出勤して来ても、注意すらできません。
会社都合で有給休暇を付与できない 
有給休暇は従業員が申請して取得するものですが、労働基準法は一定の日数につき会社が時季を指定して取得させることを認めています。これを計画的付与といいますが、計画的付与を行うのにも就業規則の根拠が必要です。
変形労働時間制を導入できない 
変形労働時間制はあまり耳慣れない制度かもしれません。わかりやすくいえば、「いつも同じ時間働くのではなく、忙しいときは長時間働き、その代わりに暇なときは早く帰って良い制度」です。
曜日や時期によって忙しさが異なる会社にうってつけの制度ですが、これも、導入には就業規則の根拠が必要です。
人事異動ができない 
転勤、出向などの人事異動も、就業規則の根拠が必要です。
懲戒解雇ができない 
まじめな従業員ばかりとは限らず、時に信じられないことをしでかす者もいます。盗み、傷害、重大な経歴詐称等々。
目に余る場合は他の従業員への示しもあるので懲戒解雇を選択することになりますが、これもまた就業規則の根拠が必要です。すなわち、「以下の行為を行った場合は懲戒解雇とする」との条項が必要ということです。
ひどい従業員をクビにすることすらできない。そんなばかなー!といくら叫んでみても仕方ありません。就業規則をちゃんと整備しておかなかったあなたの責任なのですから。